川西さんが退院して、それから数日して平瀬さんも別の病棟に移動することになった。

平瀬さんは丁寧にぼくと山本さんに頭を下げて、
ここでは時間が短くてよかったです。退屈しなくて良かったです。って
丁寧にお辞儀して、看護師さんに付き添われて病室を出ていった。

ぼくと山本さんは、廊下に出て杖をつきながらゆっくり歩く平瀬さんを見送りながら、なんか泣きたくなるよね!って二人で言った。

しばらくしてぼくも病棟を移動することになり、
その病棟の食堂で小さく椅子に腰掛けている平瀬さんを見た。

病棟の移動なんて簡単なもんで、荷物も最低限にしてしていたので30分もかからず終わってしまった。

移動は午後だったので、その日はじっとして、翌日の午後平瀬さんの名前を探して病棟内を歩き、名前を確認してそして食堂にむかい椅子にちいさく座っている平瀬さんに声をかけた。

平瀬さん!覚えていますか?って声をかけたら、小さくにっこり笑い、
「はい!あの病棟では1日が短くて良かったです」って答えた。
平瀬さんがいる今の病室は四人部屋で隣の人との仕切りが壁になっていて、隣の人の顔を見ることもできない構造で、退屈すると食堂にくるって言っていた。

それから午後の空いている時間ぼくは食堂に行き、平瀬さんと話をした。
なぜか、平瀬さんの相手をしてあげなくてはいけない気持ちになっていて、時々同じ話になったけど、ぼくは平瀬さんと話すのが楽しかったし、ぜんぜんいやじゃなかった。

話し方も良かったのかもしれない。
今は耳にすることが少なくなった昔の丁寧な鹿児島弁で、
年下のぼくに対しても優しく話す平瀬さんは、
好々爺だった。