ぼくの担当看護師だった詩穂さんは可愛い子だった。
可愛いって言ったのは家内で、ぼくは目しか見えない彼女のことを二重のぱっちり大きな目をした若い子ぐらいとしか認識できなかった。

彼女は看護師の代名詞である、優しさをもってぼくに接してくれて、そして心地よい綺麗な声でいつも話しかけてくれた。

入院後少しして処置治療があり、詩穂さんも処置室まで付き添ってくれた。

しかし翌日から詩穂さんを見なくなった。

最近見ないなぁ〜って、検診にきた看護師に尋ねたら、具合が悪く休んでいると。

そしてぼくは病棟を移動することになり、ぼくには新しい担当看護師がついた。

ぼくのベットは窓際でベットに腰掛けていると病室の入り口が見える。
本を読むのにも飽きたぼくは、ベットに腰掛け、ぼ〜としていたら、
ドアをトントンって叩く音がして、入り口を見ると、

ぼくの名前を呼ぶ詩穂さんがそこに立っていた。
彼女はにっこり笑い、小さく手を振っていた。

彼女はもちろんマスクをしていて目しか見えないけど、
あきらかにニコニコしていた。

「詩穂さんじゃない!どうしていたの?」っておもわず言ったぼくに、
虫垂炎になっちゃって!と答えた。

大変だったね!とぼくらは簡単な会話をしたあと、
「移動になっていたので、ちょっと挨拶にきました」と詩穂さんは言った。
うれしかったなぁ〜、ほんとにぼくはうれしかった。

彼女は帰り際、「またきますね!」と言って帰っていった。
もちろん、彼女がまた来ることはなかったし、
それが社交辞令だということをぼくは理解していた。

社交辞令は綺麗ごとで嫌いだとひねくれた考えをするぼくでも、
詩穂さんの「また来ますね!」には気遣いとやさしさを感じた。