山本さんの場合、

最初、山本さんの話を聞いたとき
この人の話はどこまで真実なんだろうって思ってしまった。
元航空自衛隊に所属して、軽飛行機の操縦免許を持っていて、更に看護師の資格もある。
趣味はバイク。
そうだまだあった。彼は万引きGメンのアルバイトもやった経験があり、かなり優秀な成績を収めて、警備会社からあまり捕まえないでくれ、仕事がなくなるって言われたこともあるって言っていた。

以前中東に住んでいたとき、日本からきた出張者に、この人の話はどうもおかしい、それなりの知識はあるけど、妄想のじぶんと現実のじぶんが一緒になったような人がいたが、山本さんの話を聞いたとき、おもわずこの人も同じかと思ってしまった。

ぼくはもちろんパイロットのことも自衛隊も看護師のことも詳しくない、ただ、バイクについては少しわかる。

山本さんのバイクの話にのっかって、ぼくも若い頃バイクに夢中になったこと、うまくないからホンダモーターサイクリストスクールに通ったことやツーリングの話をした。
山本さんも、自分の経験を話して、元レーサーの平選手の話が出たとき、この人本物、本当のこと、自分の経験を話していると思った。

病室には現役の看護師がやってくる、まだ初心者マークを付けている看護師もいる(ほんとに車と同じ小さな初心者マークを付けている)
その看護師より経験豊富な鈴木さんは知識があり、逆に教える側になる場合もあった。

飛行機の免許はアメリカのアリゾナで資格を取ったとのこと。

そんな、山本さん、糖尿があり、あと原因がはっきりしない病魔に犯されていた。
ぼくより先にいた山本さん、救急車で運ばれてきた山本さん、
顔色が悪く、歩くとふらつくので車いす移動を余儀なくされていた。

医者ほどはないにしても、それなりの知識がある山本さん、看護師と薬の効果について話、しばらくして薬が効いてきたのか、歩行も問題なくなり、そして僕たちと会話を楽しんだ。

ただ、山本さん、病気のせいもあり、今、職がない。
山本さんは語った。
「ぼくはいろんな事をやってきたけど結局全部中途半端になってなさけないんです」

世の中には、資格も取れなくてやめてゆくひとがいっぱいいると思うが、
ぼくから見れば「山本さん、りっぱじゃない!」って思えてしまう。

ぼくは山本さんに言った。
「どれも中途半端で終わったものないじゃない、それなりにやってきて一人前になったじゃない!そこまでやれる人めったにいないよ。
そんなに悲観することないよ!」

病室を変わる時ぼくは山本さんに言った。

山本さん、今の試行錯誤の状態から長く続けられる職についたら、家の前に黄色いハンカチを上げて、そしたらぼくは山本さん捜すから、必ず山本さん捜すから、そしてまた話そうって言った。

山本さんの家は道路から少し高いとこにあり、その道路をぼくは時々通る